Everybody love you







「はあぁああああ…。」

黒撰高校のとある1年生の教室。
一人の男子生徒が、夕日を見つめながら大仰なため息をついていた。

彼の名は、村中由太郎。
黒撰高校の野球部の誇る4番バッターである。

そんな彼に、とつぜん羽交い絞めをくらわしたのは。
1年生の教室に遠慮なく入ってきた3年の小饂飩勇だった。

「うぁ!!げほっ…う、うどん先輩?
「うぉ〜〜いユタ!!どした、ピーなため息ついて。
 ぜっふちょーだな〜〜元気ねぇぞ?」

「…うるさい…せっかくユタ静かだったのに…。」
「沖君…一応君も由太郎君と友達なんだからここは友人として懇切丁寧に親切に言葉を書けることも必要では…。」

じつは同じクラスだった沖に、小饂飩についてきていた緋慈華汰はあきれたように言った。

そんな二人に特に気づくことなく、小饂飩は後輩いじりを続けていた。

「うらうらうら〜〜な〜〜に思い悩んでたんだ〜〜?
 さ〜〜白状してもらおうか??」
「わだだだだっ言うよ〜〜言うからやめろってばうどん先輩〜〜!!」

「これ、小饂飩。下級生の教室でかように暴れるのは…。」
穏やかに彼の兄、村中魁が現れる。
由太郎は兄に助けを求めた。


「にいちゃん〜〜助けてくれよぉ〜〜!!」
「な〜〜にいってやがる!こっちは心配してやってるんだぞ?
 ほれほれ、白状しろっての!!」

「わ、わかったって〜〜!!」


流石にぐりぐりと側頭部をこずかれるのは由太郎といえど気持ちよいはずもなく。

先輩のいじりに降参した。



「実はさ〜〜…。」

##############


「ほう…。」
「そういうことか…。」
「完璧確実正確に解ったよ、由太郎君の思うことは。」
「…ようするに…。」


「そ。十二支のさるのに会いたいなって…。
 何かおれって最近そればっかりなんだよなあ…。」

はあぁああああ。

由太郎は再度大きくため息をついた。


その様子は周りの目にはこう映っていた。

((((こいつ…恋してやがるな。))))


だが。
そう聞いてその他4名は心穏やかに助言をしてやる余裕など
皆目無くなってしまった。

それは話の内容ではなく。
話の対象が原因だった。


さるの…猿野天国。十二支高校野球部1年。
十二支高校で最も野球経験の浅い、しかし最も高い潜在能力を秘めた少年。

そして周囲のものを全て魅了する、強い意志と瞳。

そんな彼と、由太郎は試合を通して、他校生の割にはかなり仲の良い間柄となっていた。


それだけでも他の黒撰メンバーには苛立ちを感じさせるというのに。


由太郎は友人以上の感情を猿野に持ち始めている。


由太郎は素直で、まさに真っ直ぐな性格だ。
自分の気持ちに気づけば…常識の壁などすぐに通り越して…猿野に…。
そんなこと。



((((許せるかよ!))))

そんな風に思っていると。


「おーい、お前ら。1年の教室でなにたむろってんだ?
 部活始まるぞぉ。」


「おっ波羅田か。」
張り詰めた空気をあっさり破ってくれたのは同野球部、9番レフトの波羅田だった。

「おう。何か監督が面白い客を呼んだから早く来いって言ってたぞ?」


「面白い客…?」

波羅田の言葉に、とりあえず話題がそれたので。
野球部の面々は、とりあえずグラウンドに出ることになった。


とりあえず由太郎の猿野への想いを確信に導かないようにするのも目的だったりしたが。



が。



#######


「さるのぉ??!!」


「よぉチョンマゲ〜元気してたか?」


何とグラウンドに来た部員達を待っていたのは、話題の主の猿野天国だった。


「さ…猿野殿。」
「猿野!(嬉しいけどなんでこんなピーな時に来るんだよ!)」
「猿野くん!」
「…猿野…。」


それぞれがかなり怪訝な色を見せたので、天国は少し憮然とした。

「あぁ?何すかその嫌そうな顔…。
 迷惑っした?」

「「「「そんなことあるはずない!!!」」」」
天国の反応に全員が力いっぱい返答した。


そんな面白い教え子と息子達に、監督である村中紀洋は笑いながら言った。

「はははは、猿野。お前一人にうちの連中は笑ったり怒ったりえらく振り回されてるな。
 いや若いってのはいい事だ。」


「何オヤジくさいこと言ってるんすか。」

「ぐはははは、俺はもう立派なオヤジだからな。」

村中の豪快な笑みに、ふと天国は口元をほころばせる。



「ところで、さるの。今日は何か用だったのか?
 おれさあ、ここんとこお前に会いたいなってず〜〜っと思ってたんだぞ。
 だからすげえ嬉しいけど!」


(ぐわっなんつーストレートな…。)

あまりにも直球な由太郎の好意あふれる言葉に、天国は少したじろいで。

照れたように笑う。

「な、何だよそれ。
 おっまえマジで素直っつーか子どもっぽいっつーか。」

天国の照れ隠しの言葉。
それに由太郎は少し声を低くした。


「子どもっぽいって…おれ、お前とおないどしじゃねえか。
 あんまそういうの言うなよ。
 子どもじゃねえぞ。おれ。」


「え…。」

軽い気持ちで言った言葉に反応された天国は戸惑う。
そして何か口にしようかと思った瞬間。

腕をつかまれ、引き寄せられた。



「ん…!」


「「「「あああああぁあああああぁぁあ!!!!!」」」」



由太郎は、天国にキスした。


思いっきり。


公衆も親も兄もいる前で。




「って、村中お前、何…!!」


「由太郎!!人前でそのような…!!」
「ユタぁああ!!お前いきなりピーってそりゃ抜け駆けってもんだろうがよ!!」
「由太郎君…!そのように大胆不敵な行動は社会的紳士的に見て規範をはずれて…。」
「…ずるい…。」

「由太郎…お前ガキの癖にやりよるな。」

他の部員達はいきなりの由太郎の行動に度肝を抜かれていた。
確かに何か言うだろうとは思っていたがいきなりこんなことをするなんて
予想の範疇を大幅に超えていた。


オヤジ一人は別の感想を抱いていたが。



ところが、由太郎はそんな回りの騒音など意に介していなかった。


どうやら勢いで行動を起こして、却って腹が据わったようだ。


「いきなりやったけどあやまんないぞ。
 おれ怒らせたのお前だからな。」




そして天国の目をまっすぐに見据えて はっきりと言った。

 


「おれは お前がすきだ。さるの。」


「え…。」



「うわ…。」
言っちまった。


周りは。

完璧に出遅れたことを悟っていた。



天国の意識を告白によって由太郎に全て掻っ攫われてしまったのだ。



「すきだ。」


由太郎は繰り返す。


その言葉に、天国は。


赤くなって 少し笑った。


周囲が暗雲を背負う中、


由太郎が飛び上がって喜んだのは、これから数分後の話。



                                          end



 年まで越して大変遅くなりました!
 幽邃さま、本当に申し訳ありませんでした。

 村中兄弟×猿ではなくて由太郎×猿に落ち着いてしまいましたし…。
 兄弟猿の結果が思いつかずで、本当にすみませんでした…。

 天国が黒撰に来た理由は実父の若い頃のデータを取りにきたから…という感じです。
 100のお題の「軌跡」と少しだけリンクしてると思ってくださっても結構ですので。

 長い長いあいだお待たせしてすみませんでした!
 こんな奴ですが、これからもよろしければサイトを見に来てくださったら嬉しいです。

 素敵なリクエスト本当にありがとうございました!


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